どっちを目指す?作業療法士と理学療法士の違い
「作業療法士(OT)と理学療法士(PT)のどっちが向いているのか?」
リハビリの仕事をしていきたい!と思っている方がよく悩まれる点の1つ。
そもそもOTとPTって、何が違うか分からない方も多いと思います。
なんとなくの認識で養成校に入学してしまい、
「自分が思っていた仕事内容と違った」という方は意外にも多いです。
そのような失敗が無いように、
しっかり作業療法士と理学療法士の違いを理解した上で、自分の進路を決めていただければと思います。
今回は、作業療法士と理学療法士の違いをご紹介していきます。
進路に悩んでいる方は、自分の理想とする仕事と近いのか、自分に向いているのかなどが少し分かるキッカケになると思います。
※作業療法士と理学療法士は、様々な場所で活躍しており、その働き方は一括りには出来ません。
あくまで、一般的な内容とオーソドックスな臨床場面からの内容になります。
目次
定義でみるOTとPTの違い
日本の定義ではどのように個別化されているのでしょうか?
まずは、それぞれの定義を見てみましょう。
日本理学療法士協会、作業療法士協会で明記されている「理学療法士及び作業療法士法」から紹介します。
作業療法の定義
【作業療法は、人々の健康と幸福を促進するために、医療、保健、福祉、教育、職業などの領域で行われる、作業に焦点を当てた治療、指導、援助である。作業とは、対象となる人々にとって目的や価値を持つ生活行為を指す。】
(註釈)
・作業療法は「人は作業を通して健康や幸福になる」という基本理念と学術的根拠に基づいて行われる。
・作業療法の対象となる人々とは、身体、精神、発達、高齢期の障害や、環境への不適応により、日々の作業に困難が生じている、またはそれが予測される人や集団を指す。
・作業には、日常生活活動、家事、仕事、趣味、遊び、対人交流、休養など、人が営む生活行為と、それを行うのに必要な心身の活動が含まれる。
・作業には、人々ができるようになりたいこと、できる必要があること、できることが期待されていることなど、個別的な目的や価値が含まれる。
・作業に焦点を当てた実践には、心身機能の回復、維持、あるいは低下を予防する手段としての作業の利用と、その作業自体を練習し、できるようにしていくという目的としての作業の利用、およびこれらを達成するための環境への働きかけが含まれる。日本作業療法士協会HPより引用
正直、作業療法士って理学療法士よりも世間的な認知度が低く、どんな仕事なのか理解されにくい部分があります。
最近、註釈が明記された事で以前より随分分かりやすくなりました。
まあそれでも、定義だけでは言葉が難しく、イメージがつきにくいと思います。
作業療法を極完結に纏めると、
- 人々は、「作業」を通して健康・幸せになる。
- 「作業」とは、目的や価値のある全ての活動。
- 病気や怪我で「作業」が困難になった人達を対象に、再び「作業」を獲得する治療を行う。
といったところになります。
具体的な内容は後でご紹介しますが、先に理学療法の定義を見ていきましょう。
理学療法の定義
「身体に障害のある者に対し、主としてその基本的動作能力の回復を図るため、治療体操その他の運動を行なわせ、及び電気刺激、マッサージ、温熱その他の物理的手段を加えることをいう」
理学療法とは病気、けが、高齢、障害などによって運動機能が低下した状態にある人々に対し、運動機能の維持・改善を目的に運動、温熱、電気、水、光線などの物理的手段を用いて行われる治療法です。
日本理学療法士協会HPより引用
つまり、身体に障害のある人に対して様々な物理的治療を用いてリハビリを行うという事です。
やっぱり正直なところ、作業療法に比べると理学療法の方がイメージしやすいですね。
一般の人が想像する「リハビリ」と呼ばれるものの多くが「理学療法」のリハビリ場面だと思います。
次は、それぞれの領域やリハビリの内容を簡潔にご紹介します。
一概には纏めきれないものの、作業療法士と理学療法士を差別化している点について詳しく紹介していきます。
作業療法士と理学療法士の領域分野の違い
OTとPTは、様々な領域や場所で活躍しています。
活躍の幅は今も広がっているため、今回は大まかにご紹介しようと思います。
作業療法士は精神障害領域と関連が強い
先ほど紹介した定義を思い出しましょう。
作業療法の対象となるのは、
身体、精神、発達、高齢期の障害や、環境への不適応により、日々の作業に困難が生じている、またはそれが予測される人や集団
身体領域だけでなく、日々の作業が困難になっている人全てです。
その中でも理学療法士と比べると、作業療法士は、
精神障害をもつ対象者への関わりが多い職種になります。
精神障害によって、日々の生活を送る事が難しくなっている方に対しては、より一層コミュニケーションなどの関わりが重要になってきます。
また、治療として用いるリハビリ方法も身体障害と異なってきます。
そのため作業療法士は、幅広い知識とスキルが必要な職種になります。
理学療法士は、身体障害領域のプロフェッショナル
定義の中にあるように、理学療法士は基本的に「身体障害」を対象としています。
ある程度対象が絞られていますが、リハビリの知識やスキルは莫大に必要です。
また、医療分野だけでなくスポーツトレーナーなどの方面で活躍している理学療法士も多くいます。
もちろん、少数派にはなりますが、精神障害者の方で身体機能に影響のある方のリハビリをする事もありますよ。
『作業療法士は広く浅く』
『理学療法士は狭く深く』
というイメージを持っている方もいますが、少し違います。
どちらも知識や技術に関しては、広く深く持てば持つほど良いのです。
OTとPTが活躍する職場
作業療法士
病院、クリニックなどの医療機関
保健所などの行政機関
訪問看護ステーションやデイケアなどの地域サービス
特別養護老人ホームなどの介護施設
精神保健福祉センターや職業センター児童福祉施設
養成校の教員や研究機関
理学療法士
病院、クリニックなどの医療機関
保健所などの行政機関
訪問看護ステーションやデイケアなどの地域サービス
特別養護老人ホームなどの介護施設
スポーツ施設や企業契約などのスポーツトレーナー
養成校の教員や研究機関
こうみてみると分かりますが、OTとPT共に色んな場所からの需要があります。
そのため、共通する部分が殆どですが、
OTは精神障害領域や職業センター、児童福祉施設などの範囲にも強い事。
PTはスポーツ医療の観点でも強い事が、特徴になります。
作業療法士と理学療法士のリハビリの違い
ここでは身体障害を主な領域としているPTと、精神障害も領域内に入っているOTとが比較をしやすいように「身体障害領域」に設定を合わせてご紹介します。
OTは「日常生活動作」PTは「基本動作」
病気や怪我をした人は、
- 身体機能の低下(腕や足の麻痺など)
- 基本動作能力の低下(起きる、立つ、歩くなど)
- 生活動作能力の低下(トイレ、食事、着替えなど)
- 社会能力の低下(家事、仕事、外出、趣味など)
つまり、基本的な身体機能の低下だけでなく、様々なレベルで困難な事が出現します。
OT、PTともにこれら全てを対象とはしていますが、
青色の部分をPT、緑色の部分をOTが中心にリハビリを行う事が多いです。
現代の時代の流れでは、PTさん達も「何をするために歩くのか」という部分をかなり意識されています。
人間は歩く事自体が目的ではなく、
「トイレに行くため」「旅行に行けるため」など、何かをするために立ったり歩いたりします。
OT、PTともに得意な分野がある事は確かですが、両方とも「生活に寄り添ったリハビリ」を提供する事は共通しています。
その中で役割分担して、基本動作や生活動作をそれぞれ訓練していくのですね。
OTは「手」、PTは「足」
作業療法士でも理学療法士でも、全身のいかなる部分のリハビリが行えなければなりません。
しかし、
OTは「上肢」という肩〜手指
PTは「下肢」という骨盤〜足指
と、それぞれ得意としている治療範囲があります。
もちろん、これに限った訳ではないですが、学術的な側面から見ても、上記の部分で秀でている事は間違いありません。
OTの手のリハビリでは、
力をつけるための筋力訓練から、指先の細かい作業能力を向上させるための訓練などがあります。
手に関しては、体の中でも特に繊細な動きや感覚を持つ部位です。
そして色んな活動をする際には、手を使う事がほとんどです。
そのため、対象者からすれば回復に対してのニーズが高い事は言うまでもありません。
PTの足のリハビリでは、筋力強化や関節の柔軟性の確保に加えて、バランスの練習であったり、歩きの安定性・耐久性・効率化などまで訓練として行なっています。
「歩行」に関しては、理学療法士が特に特化している部分です。
歩く事は、何処かへ行き、何かをするにあたって必要な移動手段です。
また、人間が人間らしくある事の1つとして認知されている事が多いという面もあります。
そのため、手と同様に対象者のニーズは高い事が多いです。
ちなみに、OTもPTも新しい治療法の1つとして
電気刺激によって筋肉の収縮を促したり、ロボットを用いて動きをサポートする方法もあります。
最近なんかではVR(バーチャルリアリティ)を利用したリハビリなどもありますよ。
OTは家事や仕事、運転まで介入する
基本的に、身の回りの事が出来るようになるのが第一ですが、その中で家事や仕事などの役割を持っている人も数多くいます。
これらも「作業」の1つなので、もちろんリハビリの対象となります。
働く分野で差異はありますが、
- 料理をしたり、洗濯物を干す練習
- 仕事で使うパソコンのタイピング練習
- 運転に必要なハンドル操作練習など
これらを作業療法士が直接、訓練の中で関わる事もあります。
PTは「運動療法」と「物理療法」を使う
理学療法というリハビリは、「運動療法」と「物理療法」とに分類されます。
運動療法とは
歩行訓練や関節運動など、実際に運動を行うことで、関節の動きや柔軟性の改善、筋力向上などの効果が得られる治療法です。
物理療法とは
物理的な刺激を意図的に施すことで、運動能力や身体機能の向上、痛みの軽減などの効果が得られる治療法です。
主には温熱、水、電気刺激や赤外線などの物理刺激を用いて行います。
理学療法士はこれらを、適切な場面で選択して治療を行っているのです。
PTは、介助場面が多い
作業を介して訓練を行う事が多いOTに比べると、PTは介助技術などの身体的なスキルを求めらてきます。
歩く事に支えが必要な人の介助を行う際、
どこをどの程度支えてあげるかなど、介助方法1つで歩き方も変わってくるのです。
稚拙な介助では、逆に歩く邪魔をしかねない事もありますので、とても重要な部分ですね。
待遇面や給料は共通している
職場によって待遇面は様々ですが、
同じ職場内に作業療法士と理学療法士が勤務している場合、待遇面は一緒であると思います。
リハビリ職は、優劣がつく職業では無いと思うので当然といえば当然かもしれません。
看護師さんと比べると、悲しくなるのでここではあえて触れません(遠い目)
OT、PTの資格保有者数と男女比
(2018年時点)
作業療法士
資格保有者:約85,000人
おおよその男女比:男性60%女性40%
理学療法士
資格保有者:約150,000人
おおよその男女比:男性60%女性40%
やはり総人数では理学療法士が圧倒的に多いですね。
今現在も、毎年数多くの国家試験合格者が出ています。人数でみればどちらも右肩上がりに増えています。
男女比は意外や意外。どちらも約6:4の割合。
2000年代までは、
細かな作業などを得意とするOTでは女性の割合が多く、身体を使ったリハビリを得意とするPTでは男性の割合が多かったようです。
ですが、現代の流れでは女性の社会進出が進んでいます。
男性セラピストが主であった理学療法士を目指す女性も増えてきている証拠ですね。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
作業療法士と理学療法士は、それぞれ特徴があります。
現在のリハビリテーションの流れでは、作業療法士と理学療法士が共通する部分も増えてきています。
一番大事なことは、各職種が連携を取り合い、対象者にとって最もよいリハビリテーションを提供する事です。
どちらを目指すにしても、その部分は忘れずに日々勉強してください。
今回の記事が、今後の進路などの1つの参考になれば幸いです。